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2013年06月11日

ハナワ図書館にハ、ワナがある

 花輪図書館。

 私が初めて鹿角に来ました日に訪ねましたところです。2月、寒くてどうしようもなかった時に、暖を取らせてもらいつつ、読書、学習をさせてもらいました。面接試験でホテルに一泊しまして、旅行者ではあるけれども、返却に来ますと話しましたところ、鹿角に一時滞在の私にも本の貸し出しを認めてくれました花輪図書館。
 返却期限を過ぎてしまい、申し訳ない思いで返却にいきますと、怒ることもなく自然に受け取って下さいます花輪図書館。
 5冊借りていて、2冊を職場に忘れてしまい、3冊しか返却できなかった時でも、普通は全冊返さないと新たな貸し出しは認めてくれないものですが、返却した2冊分新たに貸出を許可してくれました花輪図書館。
 私はまだしたことはないですが、リクエストした本入荷してくださる率もとても高いそうです。
人気の書籍が、他所ならしばらく待たねばならない中、とても早い段階で手に取るチャンスのある花輪図書館。
 こんな優しい図書館は初めてです。

 私はこの花輪図書館の、入って右奥のコーナーが一番好きです。
 柳田国男の全集、神谷美恵子全集、金田一晴彦全集、世界の名著、日本の名著などが収められています。そして私が驚きましたのは、懐事情で第2巻までしか手元に持てなかった私の、是非揃えたいと思っています、2004年に国書刊行会から出され始めたフレイザーの『金枝篇』。これがなぜか日本の名著の本の上に寝かされてあります。
 この『金枝篇』を読んで感動し、人類学を志したマリノフスキーの『西太平洋の遠洋航海者』が収められている(レヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』とセットになっています)世界の名著もこの棚にあります。
 『西太平洋の遠洋航海者』について、ちょっとだけご紹介します。
 パプア・ニューギニアにトロブリアント諸島というところがあります。島が点々として輪っかのようになっています。この海域に入るヨーロッパの船は沈められてしまう危険な海域でもありました。島同士は連絡を取っているようには見えないのに、このトロブリアント諸島民はお互いのことを知っていました。
 第一次世界大戦が勃発して本国イギリスに帰国できなくなったマリノフスキーは、このトロブリアント諸島で、現地の言葉を覚え、島に滞在することになりました。そこでマリノフスキーはあることを知りました。
 トロブリアント諸島内で、時計周りに首飾りが、反時計周りに腕輪が、島と島のの間を循環していたのです。この時に、様々な儀式がおこなわれたりするのですが、何より、情報の共有がなされるのです。
だから直接接することがない島同士であっても、情報の共有が取れていたのでした。
 この交換の制度を『クラ交換(Kula)』といいます。
 現地語を覚え、現地に数年滞在しながらその社会をみていく、という人類学の研究の基本姿勢が生まれるきっかけとなった本です。

 みすず書房から出ている神谷美恵子先生の全集(『生きがいについて』を私は特に繰り返し読みました)。特に私が好きな箇所の1つです。

 死刑囚にも、レプラの人にも、世のなかからはじき出されたひとにも、平等にひらかれているよろこび。自然界の、かぎりなくゆたかな形や色や音をこまかく味わいとるよろこび。みずからの生命をそそぎ出して新しい形やイメージをつくり出すよろこび。―こうしたものこそすべてのひとにひらかれている、まじり気のないよろこびで、たとえ盲(めしい)であっても、肢体不自由であっても、少なくともそのどれかは決してうばわれぬものであり、人間としてもっとも大切にするに足るものではなかったか。
 神谷美恵子訳のマルクス・アウレリウス・アントニヌスの『自省録』も私の愛読書です。

 「へびたま」
 これは何だと思いますか?
 これは鹿角地方で「かたつむり」をこう呼ぶ(呼んだ)そうです。
 柳田国男の『蝸牛考(かぎゅうこう)』の中で紹介されています。
 カタツムリは、場所によってさまざまな呼び名で呼ばれています。「マイマイ」「デデムシ」「ツブリ」などなど。
 このカタツムリの名称の分布から、方言が同心円状に広がっていることから、ある1地点から放射状に広がっていったとする方言周圏論という考えを柳田国男は出しました。

 かなり大雑把になってしまいましたが、花輪図書館で手に取れる面白い本はたくさんあります。 

 昨日、大館市内の高校の司書の方にお会いする機会がありましたが、鹿角にももっと司書の方のような、本と人を橋渡ししてくれるような存在、「触媒」のような存在がいてくれれば、と思います。
ただ「本が10000冊あります」では、子どもたちはどれに手を出したらよいのか分かりません。
「これはこういう本だよ。読んでみてごらん。」という最初の一歩を手助けしてくれる存在は、大きな図書室よりもかけがえのない存在です。

 自然科学の本がもっと充実するとよいなあと私などは思っています。そして、コピー代1枚20円がもう少しお手頃価格になってくれればなあ、と願っています。

 『小説の中の鹿角』という冊子が、鹿角市の市制40周年を記念して作成されました。花輪図書館ではカウンターで頼むと閲覧させてもらえます。
 この中で、司馬遼太郎がその著書『街道をゆく』の中で鹿角について記した部分が載せられています。
 鹿角は、フランスのアルザス地方に喩えられていました。

 花輪図書館にアルザスについて書かれた本が置いてありました。

 新田俊三氏の『アルザスから~ヨーロッパの文化を考える~』(以下『アルザス』とします)という本です。

 アルザスはある時はフランス領、ある時はドイツ領となる、といった経験を繰り返した街です。首都はストラスブール。この街でゲーテが学び、グーテンベルクは活発印刷を発明しまし、パスツールは教鞭をふるいました。フランス国家「ラ・マルセイエーズ」が誕生した街としても知られています。
経済的繁栄、文化の蓄積、宗教への寛容性、自由な市民活動、それがアルザスにあると。
『アルザス』はそんなアルザス地方の歴史や文化・建築・芸術について著者の造詣の深さとアルザスへの愛情が滲み出ている素敵な本でした。

 ですが、一点。この中で紹介されている映画『カサブランカ』のワンシーンに誤りがあります。
 主人公リックがドイツ国家を歌うドイツ軍人の前で、すっと立ち上がり、アルザスで生まれたフランス国歌「ラ=マルセイエーズ」を歌い出す、となっています。
 これは正しくは、主人公リックではなく、ラズローです。リックはそれを止めさせることなく、静観するのです。映画『カサブランカ』はぜひおすすめの作品の一つです。

 アルザス=ロレーヌと続けて呼ばれることの多い、やはりある時はドイツ領、またある時はフランス領となる歴史を繰り返したロレーヌ地方からも、私が大変学ばせて頂いた学者が生まれています。

 ユダヤ人ラビの息子として生まれたその方は、少年時に次のような体験をします。一人一人で接していた時には優しく、柔和だった方が、「集団の一人」になった瞬間、全く異なる顔を見せる。私たちにも覚えがあることかもしれませんが、このことに少年は衝撃を受けました。
 そして、「社会」を個人とは別の存在として切り離して研究対象として扱う視点を持ちました。
デュルケームという名のこの方が後に提唱した学問が「社会学」です。デュルケームの本も花輪図書館で手に取ることができます。


 『街道をゆく』の中で司馬さんが鹿角をアルザスに喩えたと冒頭に紹介しました。
 司馬さんは最後に述べています。

 こういう風土から、二つの風土を越えた―日本人離れした―人物が出そうである。

『アルザス』の中で、毎週日曜日、ストラスブールにあるローアン宮の中庭で、民族舞踊をみることができるとありました。
どの街から来るグループもが歌う、ある曲があるそうです。


その曲の名は、『アルザスの花輪』

 司馬さんの予言の実現を信じるKuraya

P.S. お車で花輪図書館を訪れる方は、坂を下りて図書館を出る際にお気をつけください。
 先日、雨天であったため、本の返却に車を出してくれました出足払い隊員が、私が本を返して戻ると、車の下部を雨の中さすっていました。図書館入り口側の出入り口は、勾配が急なため車種によっては車の底部を削られます。反対側の出口がオススメです。
  


Posted by のんびり探検隊2 at 07:13Comments(4)その他
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